古泉と出会って一年、所謂肉体関係を結んだのは最近になってだ。
 それこそそうなってからも、毎日のように体に触れられてはいても奴と本当の意味で身体を繋げた回数はそこまで多くはない。それも大抵は俺が嫌がって拒否し、それでも古泉が食い下がって諦めない時に、半ば押し切られるような形で。
 別に奴が好きじゃないとか、セックスが嫌いだとかそんな理由ではない。
 触り合うくらいならともかく、挿入されるのが嫌なのは決まって奴が中で出すからだ。
 そうでなくともキスなり口淫なりで古泉の体液が体内に入ると、それだけで俺はじくじくと内側から発熱する爛れるような疼きが止まらなくなって、身体がおかしくなる。
 それらは全て古泉、つまりエルフの体液には人間に対する催淫作用がある所為だ。
 このへんは以前にも話したな。
 媚薬、と言ってもいいその効果は、はちみつみたいに甘くて溶けそうに熱くて、ただ性的興奮を促され酷く感じやすくなるだけでなく、古泉が欲しくて愛しくて堪らなくなる。一度味わえば忘れられないそれは正直、毒だと思った。身体の中から陥落させられる甘い甘い蠱惑的な毒。

 そして人間に対してそういう作用を持っているのはエルフだけではないようで、渓谷にあるこの深い美しい森が人を拒むのは、そこに生きるものが脆弱な人間の精神を簡単に蝕んで堕落させてしまうその性質ゆえなのかも知れない。
 迷えば最後、堕ちていくしかないのだ。


















美しく深い森 3





















 「ひ…、っ、あ、ア、…ッああ」

 ずっと馬鹿みたいに開きっぱなしの口からは喘ぎしか出てこない。
 びくん、と腰を跳ねさせると、それに応えるように幹やその下の袋部分にまで絡みついた触手が揉み込むように蠢く。たったそれだけで俺はまた悲鳴を上げて達した。
 達したと言っても、数えるのも面倒になるほど幾度も追い込まれ続けた所為で、もう射精するだけの精液は搾られ尽くされ残っていなくて、つう、と先端に浮いた半透明の滴が漏れるように垂れ落ちていくだけだ。だと言うのに脳髄を溶かしつくすような快感は衰えるどころか更にひどくなる。地獄としか言いようが無い。
 後ろには細い触手が無数に侵入したまま、恐らくそれ等からも何かしらの成分が分泌されているのだろう。うごめくたびにぐちゅぐちゅと聞くに堪えない音とともに、抽挿されることで出来る僅かな隙間から縁を舐めるように粘液が溢れ出す。
 中が焼けつくように熱い。
 蔓自体は植物、のようなものだから発熱しているはずはない。とすると、この異常なまでの熱さは俺の身体が発しているわけだ。いや、違う。厳密には摂取させられたこいつの分泌液の作用だ。
 経口で注がれたものを飲み込んで直ぐ、まるでアルコール度数の高い酒を飲んだみたいに、かあっと身体が熱を帯びていくかと思いきや、それと同時に異常なまでに神経が敏感になり、俺はなすすべもなく些細な刺激でさえ幾度も射精を余儀なくされた。
 こいつの出す粘液にも、古泉と似たような作用があるのだろう。
 しかし古泉に中で出された時とは似ても似つかない。ただ獲物を抵抗力を無くして屠りやすくするためだけの暴力的な、こちらの意思など僅かも伴わない、強制力で以って肉体を屈服させるようなそれは、完全に猛毒だ。

 「ひう…、っ、…」

 ずるん、と一気に触手の束が抜け出て、その感触にさえ浅ましく前から涎を垂らす。
 随分拡げられたままでいた其処は異物が抜かれても閉じきらず、こぷ、と奥から垂れてきた粘液が大量にこぼれどろどろの内股を更に汚した。
 すでに身体には力が入らず、辛うじて巻きついた蔓に吊られる形で腰だけを上げたまま上体を地面に投げ出すような恰好だ。

 「あ、うう…っ、…、…っ」

 抜けたと思ったらまた入ってくる。
 細い管が数本割り込んできたかと思うと、ぐっと入口を覗くように大きく拡げられた。 冷えた夜の外気が普段晒されることのない内壁に当たる感覚と拡張される辛苦に、いやだ、と涙混じりに腰を捩らせたが無論、どうにもならない。
 ずる、と蔓同士が擦れる音がして、漸くの力で背後に視線を向けると、細い触手の群れの中に一本、それらより何倍も太さのある管が見えた。先端が植物の雌蕊に似て、膨らんだカサの下に続く幹には、球形の何かが詰まっているみたいに薄い茎皮越しにぼこぼこといびつな輪郭を浮かび上がらせている。
 ぬるり、とその先端が蛇が鎌首を擡げるような動きで拡げられた後孔に押し当てられたところで、俺は漸くこの化け物が俺をどうするつもりなのか思い至った。

 「い…っ、いやだっ、や…、やだぁああ!!」

 みっともなく掠れた声でそれでも叫び、逃れようと土の上でもがく。
 あれは種子かなにかだ。
 こいつは俺を食うつもりなんじゃない。子種を植え付けるつもりなんだ。これは捕食行動じゃなくて生殖行動じゃないか!
 化け物の子供を孕むなんて死んでも御免だ。それ以前に俺は男なのに、と思ったが、こいつにとって捕えた相手の雌雄なんてまるで関係がない気がする。何せこんな無体を働かれている時点で既に常軌を逸したモンスターと言う外無い。こんなことならさっさと食われていたほうがまだマシだ。
 泣き喚き、僅かに残されたなけなしの力で暴れる俺の抵抗など微風同然とばかりの様子で伸びてきた蔓に、前のめりに逃げられないよう背中を地面に押しつけられる。ぎし、と背骨が軋んだ。なんて力だ。

 「ひ、…っ、い、やだ、…っ、こいずみ、…っ」

 古泉俺が悪かった、もう絶対お前の忠告を無視したりなんてしない、ちゃんと言うとおりにするし何でもする。頼むから助けてくれ!
 などと心の中で祈ったところで無駄だ。
 辺りには俺の泣きじゃくる声と荒い呼吸と蔓が這いずり回る音と、時折風に遊ばれる、木々の葉擦れの音以外静寂に包まれていて何の気配もない。
 位置を確かめるように入り口をつついていたそれが、唐突にずぶ、と切っ先を潜らせた。

 「うぁ…っ、あ、あ!!」

 古泉のそれ、とは比較したくもないが、一回りはゆうに太い管が差し込まれる。
 張り出した部分を容赦なく捩込まれ悲鳴を上げ、耐え難い苦痛に嗚咽し、そのたびにびくびくと跳ね上がる俺の肢体を触手はがっちり抑え込んで許さない。

 「ひ、…っぐ、…、ぅう、…、っ…!!」

 みっちりと隙間なく、限界いっぱいに拡げられた肉襞をごりごりといびつな幹が擦り上げ奥へと移動する。当然内部の弱い部分も強く押し込まれ、その苦痛に酷似した快感に思いっきり侵入物を締めつけてしまい、それがまた性感帯を押しつける。もう滅茶苦茶だ。
 涎と涙に塗れた顔を拭うことすら出来ず、されるがままに啜り泣く。
 それ以上進めない最奥にぶつかったのか、触手の動きが止まった。
 随分と深くまで犯されているらしく、内蔵を押し上げられている圧迫感と異物感はこれまで感じたことがないくらい酷い。

 「はあ…、は、…はー…、……」

 息苦しくて必死に呼吸を意識する。
 深く吸うと締め付けてしまうので恐々と吸って、吐いてを繰り返して、衝撃をやり過ごそうと努めた。そうしないと本当に酸欠で死んでしまいそうだ。
 しかし、そんな俺の健気な努力を粉砕するように動きを止めていた管が、内壁を強く擦りながら一気にぎりぎりまで引きずり出される。

 「あっ、ぁあああ!!!」

 絶叫した。まるで拷問だ。
 引き抜かれたそれは間髪入れずにまた一気に元の深さまで埋め戻され、かと思うとすぐさま引き抜かれ、まるで俺を壊そうとしているかのようにその動作を繰り返す。
 こいつの体液の作用で身体が受け入れられるように柔らかくされていなければとっくに壊されているだろう。

 「ひ、…っい、あ、ああ…、っあ、うぅ…、…」

 ぐちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音を立てて太く長い管で激しく抽挿されながら、前に絡んだ無数の蔓が堕ちてしまえとばかりに刺激を与えてくる。苦痛と快楽がない混ぜになりもう訳がわからず、いろんな体液で塗れた額に貼りつく髪を振り乱して喘いだ。
 幹を扱きつつ、敏感な先端の小孔に先端を押しつけられる。
 また入れる気か、という予想は嬉しくないことに的中する。しとどに濡れて力も入らないせいで、つぷん、と飲み込まれたそれはさっきよりも抵抗なくすんなり中に這入り込んだ。そのままずるずると無遠慮に尿道を這いずって身体の奥へと侵入する。痛みなのか快楽なのかも判別がつかず、ただ恐ろしいばかりでそれを直視出来ず、そうする余裕もないまま震えながら啜り泣いた。

  「う、あ、っあ…、だ、駄目…、い…いく、…っ」

 脊椎を駆け上がる快感の域を通り越した感覚に、身体を固く緊張させる。
 蔓の一本に深々と塞き止められたその細管に、出口を求めて熱が迫り上がる。これでは出したくても出せない、と思うと、次の瞬間には、ずるずると中から溢れ出ようとする精液を直接、吸い出されるような有り得ない感触が肉茎の根本部分に走る。

 「ひ、ぃッ、…!?、やら、ぁあ、っあ…、ーーーッ!!!」

 目を丸く見開いたままのはずなのに、視界は真っ白で何も映らない。
 絶頂は射精できない所為でいつまでも終わらず、塞いだ蔓が精液を吸い出し終わるまで続いた。




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update:09/10/04



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