俺は今、頗る機嫌が悪い。 別に駅の階段で転んだわけでも、我らが団長様がまた御無体を言い出したわけでもない。 ましてや恋人と喧嘩をしたわけでもない。 まあ、喧嘩をしたわけではないが、原因はそのへんにあることには違いはないが。 朝からいつもにましてやる気のない俺に、ハルヒが背後から「何かあったの」などと聞いてくる。いや別に、などと濁す返事をしながら、俺は心中ため息をついた。 だって言えるわけないだろ。 古泉がセックスしてくれないからだなんて。 絶対的プライオリティ 触れてほしい。 抱きしめてほしい。 キスも、それ以上もしてほしい。 出来るなら毎日でも。 そう考えてしまうのは、それだけ古泉のことを好きだからなのか、それとも単に俺が覚えたてのセックスという快楽にのめり込んでる淫乱だからなのか。 多分半々だろう。 そうでなくてもしたい盛りのお年頃なわけだし、そのリビドーが同性に向かっているというのは少々問題だが、お互いに弊害を承知の上で好き合っているんだから仕方がないとも言える。 最初に同じベッドで寝たのが一ヶ月前。 それから三日と空けずにしてる。まあ、諸々の行為をだ。 休日に泊まりに行くのは勿論、放課後の団活動の後にも古泉の部屋に寄ったり。 それが日課のようになっていたから、週の初めに古泉が、 「今週はちょっと時間をとれそうになくて」 と言い出したときは多少複雑だった。 別に仕事とわたしとどっちが、なんて可愛い女の子限定の台詞を吐くつもりは毛ほどにもないが、それでも、お前はそれで平気なのかよ、と思うくらいの気持ちはある。 俺は毎日でもしたいのに。 古泉はそうじゃない。 少しぐらい面白くないと感じても仕方ないじゃないか。 放課後。 いつものように文芸部室の定位置で長机に向かって突っ伏しながら、俺は古泉が来るのを待っていた。 昨日は少し顔を出しただけですぐに帰ってしまった。 二人きりの時間が持てなくとも、せめてこうして団活動の間だけでも一緒にいたい。 顔をみたい。声を聞いていたい。 そんな俺のケナゲな思いは10分後、一刀両断されることになる。 「すみませんが、今日もバイトが入ってまして」 部室のドアの前、そうすまなそうに告げる古泉は、ハルヒにSOS団とバイトどっちが大事なの、と詰問を受けていた。ハルヒ、お前は簡単にそういうことを口に出せていいな。女子の特権か。 結局明日は必ず団活を優先させることを宣誓させられたあと、古泉が「それでは、お先に失礼します」と軽く手を上げ部室の外に出た。 完全にドアが閉まる前、ちら、とこちらに視線を投げた古泉と目が合う。 もしかしたら落胆が顔に出てしまっていたのかもしれない。 古泉がすみません、とでもいいたげに眉を下げ、目を細めた。 ドアが閉まる。 「………」 最後にしたのが日曜。 今日は木曜だ。 駄目だ。 これ以上我慢なんてできるか! 「ちょっとキョン、どこ行くのよ!」 ハルヒの声にトイレ、と背中で返事をして、俺は部室の外に出た。 ---------------------------------- update:08/3/5 |