病める時も、健やかなる時も 3





 「記憶が…って」



 古泉の言った台詞を反芻するように呟くと、奴が一瞬舌打ちでもしそうな表情を浮かべたのを俺は見逃さなかった。


 「おまっ…、お前こそっ!元の記憶戻ってたんじゃねえか!!」


 この狸野郎、わざとトボけてやがったのか!!


 「帰って来てみれば、どこか貴方の様子がおかしいとは思ってましたが…」

 そうですか…思い出しちゃったんですか、と、
 さも残念そうに大仰な溜息をつく。

 「ふざけるな!お前、いつから気がついてたんだよ…!?」
 「異変を感じていたのはここ一月ほどですが…、
  涼宮さんの力だと確信を得たのは二週間前でしょうか」

 そんなに前から気がついてたのか…。

 「なんで知ってた癖に俺に言わないんだよ…」
 「貴方が考えたことと大方同じですよ。あなたが記憶の断片でも思い出していない限り、例えば、『この世界は涼宮さんによって改変された偽物で、僕とあなたはまだ高校生の筈なんです』と僕が申し上げたところで、それを貴方は信じますか?」


 まあ、お前の頭がおかしくなったと思うだろうな。


 古泉ごときに一杯食わされていたことは業腹だが、これで今の状況がハルヒの力による変革であることは証明されたわけだ。俺と古泉の頭が揃っておかしくなったとは考えにくいからな。
 少しだけほっとした部分もある。
 古泉が、このまま元の正しい記憶を忘れたままだったらどうしようかと、一切不安に思わなかったわけではない。



 「でもまあ、僕は別にこのままでも構わないんですがね」




 さらりと笑顔で古泉が吐いた言葉に、俺はフリーズした。




 「…は?」

 聞き違いか。聞き違いに決まってるよな?

 思いっきり眉をしかめて古泉を見上げると、俺の身体にのしかかったままの状態の古泉が、呼吸音が聞こえそうなほどの距離で、文字通りニヤリ、という擬音が似合いそうな笑みを浮かべ、

 「だってそうでしょう。涼宮さんに認められ、周りにも祝福されてあなたと結ばれ、こうして結婚生活を送れるだなんて、元の世界ですら、いや、元の世界だからこそ有り得ない幸福だと思いませんか?」

 思わん。一切思わん。

 即答すると、古泉は困ったように苦笑する。
 困るのはこっちだ!この期に及んで何寝言を言い出すんだこの変態は。


 「冗談も休み休み…、っ!!」

 休み休み言え、と毒づこうとしたところを、いきなり口を塞がれた。
 古泉の唇で、だ。

 「っんぅ…、く、…うう、ッ!!」

 抵抗する暇さえなく素早く口内へ滑り込んできた温かな舌が、やや乱暴に粘膜を蹂躙する。掻き回され、逃げることも出来ない舌を掠い、絡ませて強く吸われる。

 「んッ、んく、ぅ…、…っぷは!、っやめ、古泉…」

 口が解放されたことに息つく余裕もなく、古泉の掌が止まっていた愛撫を再開する。
 唐突すぎる!

 覆いかぶさっている身体を退かそうと古泉の肩を掴んだ手に力を篭める前に、スウェットの上から性器をぎゅっと握りこまれ、本能的に身体から力が抜ける。
 ぐり、と布越しに、まだほとんど反応を示していない先端を爪先で引っ掻くように押し込まれ、びくっと腰がふるえた。

 「ふぁ…っ!!」
 「…涼宮さんに知られた時には、僕はきっと彼女に存在ごと消されるものと覚悟していましたからね。まさか貴方との仲を認めて下さったばかりか、こうしてお膳立てまでして頂けるとは思いもよりませんでしたよ」


 俺も思ってもみなかったさ。
 ハルヒには散々振り回されてきたが、よもやお前と結婚までさせられる日が
 来ようとはな!


 「…っ、う!」
 「ふふ、お喋りはあとにしましょうか」

 身体が反転して俯せにされたかと思うと、下着をかい潜った指先が尻の狭間を圧してくる。反射的に息をつまらせた。何度か慣らすように入口を撫でたあと、唾液のぬめりを借りて、ぐっ、と身体の中に挿入ってくる。

 「んく…、…ぅ」

 どうやったって慣れない異物感にシーツに顔を擦りつけて呻くと、軽く音を立てて古泉のくちびるが頬にふれる。

 「楽にして下さいね。すぐ悦くしてあげます」

 囁きと共に、指が手慣れた動きでそこを弄り始める。

 「っふぅ、あ…、やっ…だ、…」

 くちくちといやらしい音を立て、抜き差しされる。
 ぐっと奥まで突っ込まれたり、浅く引き抜かれて入り口を拡げられたり。
 古泉のやり口とそこでの快楽を覚え込んでいるふしだらな身体は、主の心情など省みず勝手に昂ぶっていく。未だ脱がされないままのスウェットの中で、自分が張り詰めていくのが嫌というほどわかった。もしかするともう下着を濡らしてしまっているかもしれない。

 こんなことしてる場合じゃない、と考えるそばから、
 白い霞に思考が塗り潰されていく。

 「ひっ、あ!!…や、あ、やだッ…そこ…」
 「嘘。ここがイイ、でしょう?」

 潜り込んだ指先が、的確に前立腺を押し上げる。
 途端に声も我慢できなくなるくらいの悦楽が走って、俺は枕に爪を立ててそれに堪えた。
 もはや探るような動きでもない、内部のどこをどうすれば、どれくらいの快感を俺が得るのか熟知しているような動作で、古泉は確実に、執拗に煽り立ててくる。

 「ふ、…うぁっ、…あ、あ…や、…駄目、古泉、だめっ」

 なんだこれ。
 いつもと何かが違う。

 いつもよりも格段に早いペースで昇り詰めていく自分に狼狽する。
 俺の身体がおかしい、というよりは、古泉の愛撫が、なんだか少し違っている。
 こいつ、こんなに巧かったっけ…?

 「そりゃあ、作られたものでも三年間の記憶はしっかりありますからね。高校生の僕よりずっと貴方の身体を熟知していても、不思議はないでしょう?」
 「そん、な、…ぁ…っひ!」

 中で感じるところに当たるように関節を曲げられ、がくんと腰が落ちた。
 駄目だ、やばい!


 「っひん、あ、ぁああ…ッ!!!」


 やばい、いく、と思った瞬間、ぶるりと身体がふるえ、俺は甘ったれた声を上げて射精していた。勿論、スウェットの中で。最悪だ。

 「はっ…、ぁあ…、……」
 「もう出ちゃいましたね」

 くすりと笑われ、屈辱で耳まで赤くなる。泣きたい。
 後ろを指で弄られただけでイカされた。前にはちゃんと触られてもいないのに。
 これは男として屈辱以外の何物でもないだろうよ。
 同じ男に喘がされてる時点で既に終わっているわけだが。

 大体三年分古泉の技巧が進化しているというなら、なんで俺の身体には三年分の耐性がついてないんだ。理不尽すぎやしないか。

 「どちらかというと、さらに敏感になってしまったんじゃないんですか?
  僕の不断の努力の賜物でしょうね」

 五月蝿い。黙れ。

 そう罵倒してやりたくても、呼吸は乱れたままだし身体に力も入らない。
 ぜーぜー言っている間に、また身体を仰向けにされる。
 べったり濡れた下着ごと下衣を剥ぎ取られ、脚を肩に担がれ腰を高く持ち上げられた。まだじんじんと疼く場所に熱いものが押し当てられる感覚に、俺は反射的にぎゅっと目をつぶった。


 「もう、挿れてもいいですよね?奥さん」


 古泉の笑い混じりの声が降ってくる。
 奥さんとか言うな!!






----------------------------------




古泉はたぬき!確信犯!\(^o^)/


update:08/1/17



4へ→