ワンダリング 2













 指を入れた彼の中はひどく熱く、不規則に引き攣る呼吸に合わせてきつくなったり緩んだりを繰り返していて、指先を動かせばそれをいやがるように顕著に締めつけ反応する。彼自身の表情より言葉より、よっぽど素直で可愛いげがある、と思った。
 女性器とは違う、もとより排泄器官としての用途にある其処は当然ながら受け入れるようには出来ていないし、分泌液で濡れることもない。ぬめりを足そうとローションの容器から直接、無造作に会陰にそれを垂らすと、冷たさからか彼の内股が小さく跳ねた。
 一本捩込んだ中指に添わせて早々に人差し指も増やす。
 いいか悪いかすら尋ねることなくそれを行うと、埋め込まれるさなか彼が押し潰したような悲鳴を上げた。指をくわえこませたそこばかり見ていた視線を上げ、彼を見遣ると、腕で口許を押さえシャツに噛み付き声を殺して泣いていた。
 それ程に苦痛ならばやめろ嫌だと暴れて抵抗すれば良いものを。

 「痛い?それとも苦しいんですか」

 逡巡したあと、こくんと首が僅かに縦に動く。
 そうですか、と無感動に答えながら、二本埋め込まれただけでもぎちぎちの其処を、さらに拡げるように指の股をひらくと、彼が更に眉をしかめて肢体をのたうたせた。噛み締めたシャツ越しにくぐもった苦しげな声がこぼれたものの、悲鳴を殺されたことが何となくおもしろくなかった。

 「痛いとおっしゃるわりには、」

 つるりとした熱い粘膜を指の腹で抉る。
 押し殺して苦しそうな彼の呼吸がその度に乱れる。

 「ここ、勃ってますけど」

 痛いほうが興奮しますか、と嗤いながら指摘すると、彼は濡れそぼつ双眸を大きく見開いたあと、屈辱からか苦痛からか判別のつきがたい表情で口をふさいだ逆の手を伸ばしてシャツの裾を引っ張り、すっかり反応して上向いた性器を隠そうとする。
 そもそも挿入さえ出来ればそれで用は足りるので、雄の象徴でしかないそれに触れてやるつもりも無かったのでしたいようにさせ、その奥の狭い孔を拡げることに専念する。
 女の代わりになると言ったのは外ならぬ彼自身だ。ならば徹底して女のように扱ってやろう、と始めから、決めていた。

 「い、っぁあ…!!!」

 三本目を入れた時には、流石にはっきりと悲鳴を上げた。
 これだけ狭くても入るものなんだな、と暢気な感想を抱きながら指をばらばらに動かしてみると、断続的に泣き声が上がるものの、やめろ、とかいや、と言った拒絶の言葉はやはり吐かない。
 彼に恋愛感情など欠片も持ち合わせていないにも関わらず、半ば勢いと自棄で他人の尻に指を突っ込んでまで男である彼を抱こうとしている僕と、それに気づいているだろうに身体を投げ出してまで僕を好きだと言う彼。まるで滑稽で不自然な繋がりは、この歪な情交そのものだ。それでも止めるという選択肢はとうの昔に、無い。
 ぐちゅ、と潤んだ粘膜が擦れあう音とともに指を乱暴に抜き出すと、やはり彼の許諾も取らずにそこに熱を持ったままの自身を押し当てる。
 びくっと奮え、途端に強張る彼に力を抜くよう口先だけで勧告すると、そのまま両足を押さえ付けて腰を押しつけた。

 「う、…、あ、あっ!!…、…か、…っは」

 先端を押し込んでいくにつれて、大きく開いた彼の目からぶわりと大粒の泪があふれる。
 あっという間に決壊しこめかみや鼻梁を伝い濡らしていくそれを眺めながら、それでも押し入ろうとする動作は止めなかった。
 強く腰を揺するたび、苦痛に声もろくに出せないのかぱくぱくと開いた口腔、白い歯の奥に引き攣る赤い舌が見え隠れする。
 薄い膜越しに痛いほど締めつけてくる彼の内側は、当然まだ楔に馴染まず固いがひどく気持ちが良かった。何度か繰り返して慣れさせればなかなか具合がよくなるんじゃないだろうか、と苦痛に泣く彼を見下ろしながら考えている自分は、我事ながら最低だと自嘲した。

 「ひ、っぃ…、…ッ、…っ」

 何とか奥まで埋め込んだあと、早々に腰を引く。ずるずると絡みつく粘膜を引きずりながら抜き出し、また元の深さまで埋め戻す。痛みしか感じていないだろう彼が、こちらが動く度に呼吸すら覚束ないまま泣きじゃくるのを見ていると、何故だかさっきまで蟠っていた苛立ちが収束していくような気がした。

 「ホラ…可哀相に、こっち、萎えてしまってますから、自分で弄って見せて下さい」

 貴方が感じてると中が締まるから、その方が悦いんですよ、と殊更に優しく微笑みながら言うと、彼がしゃくり上げながらも従順に、震える手を自身に絡ませる。

 「う…、っん、……んっ…うぅ…っ、…」

 ベッドの上で、シーツを揉みくちゃにしながらしなやかな四肢を苦痛に捩らせ、あらぬところに男を受け入れ泣きながら自身を慰撫する彼の裸体は、制服を纏ったいつもの彼からとは思いもつかないほど猥らで、壮絶なまでにいやらしい。途端、かっと脳の奥を真っ赤に染める情動が湧いてきて、ちぎれかけた理性の狭間で彼の中を好き勝手に犯し、避妊具越しの射精を終える頃には彼も僕に引きずられるようにして、自身の手を溢れ出た粘液で汚していた。
 ずるりと自身を抜き出す瞬間、また彼が小さく呻く。
 はあはあと荒い呼吸の間に時折しゃくり上げ、うつろな目をふせたまま力無く横たわる肢体を見つめていると、もう取り返しがつかない、と、頭の中で囁く誰かの声が聞こえた気がした。









 こちらの視線から隠れるようにして縮こまりながら汚れた箇所をティッシュで拭い、乱れて皺の寄ったシャツを着直す彼をベッドに凭れたまま眺める。

 「シャワーくらいお貸ししますよ」
 「………いい」

 掠れきった声が小さく呟く。
 すっかりいつもの表情に戻った彼の顔には、僅かに腫れた瞼くらいにしか情交の後は残っていない。せっかく心の底に沈澱していたはずの苛立ちが、また掻き乱されるような気がした。

 「なかなか具合が良かったですよ。貴方」

 唇を歪めてそう言うと、俯いたままの彼がのろのろと視線を上げてこちらを見た。

 「でもここまで手間がかかると面倒ですから、ちゃんと柔らかくなるよう自分で慣らしてくださいね。あと、ゴムをしなくていいよう中も綺麗にしてきてください。明日からは」

 にっこりと、部室でそうしているのと同じように微笑んでやると、陽が落ちきって暗い室内の、カーテンの隙間から射し込む街灯の明かりに浮かび上がる心なしか青ざめた顔をした彼のくちびるが、僅かに震える。そうしていくらか間をあけたあと、彼は消え入りそうな声でそれでも確かに、それを了承する返事を寄越した。





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これはひどい(´_ゝ`)、

update:09/12/03