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ATTENTION!
にょたです。
なぜか古泉が女体化です。
古キョン大前提ですがダメそうな方はお戻りください。
大丈夫な方はどうぞ!
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『困ったことになりました』
珍しく電話でなくメールで古泉からの呼び出しが来たのは、土曜日の朝だった。
You're my angel
「どうも。お待ちしてました」
古泉のマンションの廊下、いつものようにそう言って部屋のドアを開けたのは、まったく見知らぬ人物だ。
いや、正確には見知った奴の片鱗はあるのだが。どちらかというと同じ人物が、別人としか思えないような変身を遂げた状態と言っていい。
前以てメールで事情を知らず訪ねて来たとしたら、まさに驚天動地だったろう。
何故なら、困ったような苦笑を浮かべてそこに立っているのは
とびきりの美少女だからだ。
見覚えのある栗色の髪と色素の薄い瞳はそのままに、ただし短かったはずの髪は伸びて胸元まで垂れている。身長も低い。シャツの下の細く緩やかな曲線を描く身体のラインは、どう見てもやわらかな女性のそれだ。
秀麗な眉に、人形のように長い睫毛。
すっと通った鼻梁。
僅かに逆アーチを描いている、形のいい唇。
谷口あたりがみればトリプルAの評価は固いだろう。
俺が爼上の瀕死の魚みたいに口をぱくぱくさせているのを見て、少女は「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」と言った。
声も涼やかさを残して高くなっている。
「………………古泉、なのか?」
ようやく一言を搾り出すと、変わり果てた姿の古泉は微笑することで返事をした。
「いえ、朝起きてみたら既にこの姿でして…いや、仰天しました」
ちっとも動揺してない口調で言いながら、古泉(女)が後頭部に手をやる。
ちょっとした仕草なんかは古泉のままだから、非常に変な感じだ。
昨日の夕方別れた時には全くもって普通だったから、
まさに一夜にして変貌を遂げたってわけか。
そんな超化学的な事態の原因など、もはや議論するまでもない。
「ハルヒか」
「でしょうね」
俺と古泉は同時に嘆息した。
いったい古泉を女にしてどうしたいんだあいつは。
「涼宮さんのことですから、僕やあなたが女体化したら面白そうだ、くらいに
考えたんでしょうね。最近退屈気味だったようですし」
そんな理由で他人の生まれてから十数年揺らいだことのない、性別という根底の属性を簡単に覆してくれるなよ。
しかし、俺には何の変化もないようだが。
まさかこれから変わるとか言うなよ頼むから。
「ふふ、涼宮さんはあなたが同性になることは望んでなかったと
いうことでしょうか」
妙な含み笑いをしながら視線を寄越す。
いつもだったら俺より若干高い位置にある古泉の顔が、今は古泉が正座していてやっと同じくらいの場所にある。見てくれだけなら可愛い女の子にやや上目使いに見られて、中身が古泉だとわかっていても落ち着かない。
モトが美形なら性別が変わっても美形ってことか。
古泉に姉か妹がいたとしたら、こんな感じの美人なのかもしれないな。
そういや家族構成なんて聞いたことないが。
「どうかしましたか?」
そう問い掛けられてはっとする。
凝視しすぎだ!
「と、とりあえず長門に相談してみるか」
「それしかないですね」
慌てて下を向くと、俺は長門に連絡をとるべくポケットから携帯を取り出した。
状況を打開してくれそうな唯一の頼みの綱が、古泉を見るなり放った一言は
「ユニーク」だ。
そんな曖昧に笑うなよ、古泉。
「じゃあ、すぐには元に戻らないのか?」
長門のマンションの相変わらず広く何もないリビング。
テーブルを挟んだ向こう側で、休日にも関わらず制服姿の長門が頷いた。
「とはいえ、一過性の事象に過ぎない。時期が経過すれば元の姿に戻る」
「時期…、とは、どれくらいですか」
古泉が質問すると、硬質な印象の瞳が視線を俺から古泉の方へ横滑りさせた。
「最短で数時間。長くて半年」
なんだその極端な差は!
天井から重たい沈黙がのしかかってくる。
ちら、と横に座る古泉に目をやると、さすがにこの宣告を受けて笑みを浮かべる余裕はないようだ。心なしか表情が固まっている。
数時間で元通りなら僥倖だが、もし明日中に戻らなければ古泉は学校にも行けない。
周囲に隠しおおせられるのもせいぜい一週間が限度だろう。
それを超すようだといよいよ厄介だぞ。
「何とかして、強制的に戻すことはできないのか?」
「不可能ではない。しかし、相応のリスクを伴う」
長門の言葉に、俺はいつぞやの野球大会を思い出した。
どんな代償を払わせられるのか、聞きたいような聞きたくないような。
しかし最悪の場合を考えると、悠長に時期とやらを待つわけにはいかないだろうな。
突然古泉が消えればハルヒは黙ってはいまい。
あのハルヒに何ヶ月も嘘をつき続けるのも難しい。
よしんば機関がよこすハルヒの監視役に代わりが居ても、SOS団副団長に代役はいないのだ。
「…もし一週間経っても戻らなかったら、長門、…手はあるか?」
「………」
短い沈黙のあと、
「善処する」
「面倒に関わらせてすみません」
古泉が苦笑する。
帰り際、昼下がりの改札はそれなりに混み合っていた。
来る時に着ていた服ではなく、古泉は長門から借用した制服を着ている。
言うまでもなく、女子のセーラーだ。
でかすぎる男物を裾を捲くり上げて着ているよりはよっぽど似合っているので、それが分かっているらしい古泉も何も言わない。
寧ろ、360度どこから見ても完ぺきな女子高生だ。
下校中こうやって古泉と並ぶことは当たり前になりつつあったが、やっぱりこうなると少し勝手が違う。
いつもは俺がやや見上げ気味になるが、今は古泉が俺を見上げている。
身長は、頭の位置からしてハルヒよりちょっと高いくらいだろう。
こうやって古泉を見下ろす機会なんてそうそうないな。
「気にすんな。面倒に巻き込まれたのはお前だろ」
そう言うと、古泉はまたすみません、と謝罪しながら桜色の唇を綻ばせた。
そのまま並んで駅前の通りを歩いていると、休みの日に制服なのが珍しいわけでもないだろうに、すれ違う人の視線をちらちら感じる。
視線の矛先は古泉だ。
男の姿でもやたら女性の目を引いていたが、女になればなったで今度は男どもの興味の対象になるらしく、すれ違う男の三人に一人は古泉を見ている。
外見だけなら一級の美少女だからな。
まあ古泉からしたら、どれだけ野郎の視線を集めたところで嬉しくなかろうが。
通り沿いのコンビニの自動ドアに、並んで歩く俺と古泉が写る。
しかし、こうして歩いてると…
「まるで普通の高校生カップルみたいですね」
俺の心を読んだかのように古泉が笑った。
同じことを考えていたらしい。
確かに今この状態なら、街中に普通にありふれている恋人同士に見えるだろうな。
そんなことを考えていると不意に古泉の手が伸びてきて、手を握られた。
「おい…っ」
「いいじゃないですか。今なら誰が見ても男同士には見えないんですから。
…少しくらい現状を楽しんでも、悪くはないでしょう?」
悪戯っぽく笑いながら、更に指をからめるようにして強く握ってくる。
骨張った、俺より少し大きな掌ではなく、女の子特有の華奢な手のひらに白魚みたいな細い指。駄目だ。調子が狂う。
古泉はどことなく嬉しそうに微笑んだままだ。
いつもだったら天下の往来で何考えてんだ欝陶しい、と一蹴してやるものを、
マンションに着いて古泉の方から手を離すまで、無理やりに振りほどくことが出来なかったのは、
…なんでなんだろうな。
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続きます
update:07/11/7
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