You're my angel 3





 「やめろ…ッやめろって!古泉…!!」


 みっともなく上擦った俺の声が、静まった寝室に虚しく響く。

 今現在の気分を説明しろと言われても、俺の乏しいボキャブラリでは表現に足る言葉が見つからない。たぶん今の俺とまったく同じ心境を味わったことのある人間は、地球上の何処を探してもいないと思う。いや、いないと断言しても言い過ぎじゃない。

 一夜のうちに完全な異性に変身を遂げた同性の恋人に、
 今まさに寝込みを襲われようとしているなんて。




 「だから、今更でしょう?これまで何度こうして
  抱き合ってきたと思ってるんです」

 両手で俺の頭を囲うように覆いかぶさりながら、古泉が至近距離で呆れたような溜息を吐く。その顔で抱き合ったとか言うなその顔で!

 「…っそれとこれとは話が別だ!」
 「違いませんよ。同じ僕じゃないですか」

 今は身体がちょっと女性なだけで、と、視線をちらりと自らの肢体におとす。
 お前の言うちょっとが俺には大問題なんだ。

 「本当に…。姿ひとつでとことん惑わされる人ですねえ」

 悪いかよ。
 お前だって、もし女になったのが俺だったとしたら
 さすがに憚られるだろう?

 古泉は数秒考える仕種を見せたあと、これ以上ない爽やかな微笑で、


 「勿論、その場合は有り難く処女を戴いていたと思います」
 「……………」


 女にされたのがお前で心底良かったよ。
 その点ではハルヒに感謝してもいい。


 「安心して下さい。別に女性になったからといってあなたに抱いてもらおうというわけじゃありませんから。幸い、性別が変わっても、僕の欲望はあなたを泣かせたい、という男の立ち位置でしか働かないみたいです」
 「何言っ…、…お、おい…ッ!!」

 これ以上の押し問答は不毛だといわんばかりに、古泉が再び首筋に顔をうずめてくる。

 「っう、ぁ…」

 甘く歯を立てられ、吸い付かれる。思わず肩がびくついた。
 シャツ越しに身体をまさぐってくる掌も、くちびるも舌も、いつもと同じ愛撫のはずなのに、どこもかしこもいつもの古泉とは違う。違和感のある感触に、違和感を感じるほど男の古泉に慣らされているという事実に憤慨するより先に、拒絶の意思が湧いてくる。

 「いや、嫌だ…、って!!」
 「嫌なら、突き飛ばして逃げたらどうです?」

 くすくすと小さく笑いながら、シャツの裾から細い手指を忍び込ませる。身をよじらせるより先にすんなり乳首を探り当てられ、息を飲んだ。
 掴んだままの古泉の肩に力をこめる。やわらかく華奢な感触にめまいがする。
 いつもだったら手加減も容赦もなく暴れて拒否するところなのだが(それで回避に成功するかは別問題として)、こんな頼りなく細い肢体を仮にも男の腕力で突き飛ばしたりしたら、それこそ折れてしまいそうで怖い。

 「んぁ…、っ」

 ぐり、と摘まれた突起をこねるように押しつぶされ、条件反射みたいに声が出る。
 散々そうされると快感を拾い上げるよう教え込まれてきたせいだ。
 そう仕向けたのは外ならぬ目の前の古泉自身な訳だが、それでも女の形をした古泉にそれをされるとひたすら恥ずかしさでいっぱいになる。
 端から見たら女の子に押し倒されて、胸をいじられて声を上げてる情けない男の構図じゃないか。普段男に抱かれて喘いでるというだけで充分屈辱的だというのに、こんなの男の矜持も何もあったもんじゃない。

 思考を展開している間にシャツを一気にたくし上げられ、
 指でもてあそんでいた部分に口づけられる。

 「ッやだ、…や、めろっ古泉…!!!」

 思わず押し返そうと、古泉の肩を掴んでいた手をその胸許に滑らせ、


 「………!!!」


 例えようもなくやわらかな感触に、全身が総毛立った。

 「……ッッす、すまん!!!」

 弾かれるようにして手を離すと、慌てて顔を背ける。耳まで血が上っているのが見なくてもわかる。
 もう泣きそうだ。訳がわからなくなってきた。
 うろたえまくる俺の様子がさぞ面白いのだろう、助長した古泉がいたずらっぽく喉で笑いを零しながら、俺の手を取った。

 「別に構いませんよ?僕だけ触らせていただくのも
  フェアじゃありませんから」

 そのまま、強張った掌をぎゅっと胸のふくらみに圧しつけられる。
 あまりの事態に俺は完全に硬直した。
 いくらもない距離で艶っぽくくちびるを歪められ、目を逸らそうにもそらせない。
 細い癖に出るところは出た古泉の胸は、俺の掌でも少しあまるくらいしっかりした質量で。当然ながら風呂上がりで薄い布一枚しか隔てておらず、ダイレクトに体温が伝わる人肌の感触に心臓が痛いほどに鼓動する。
 まさか人生で初めて触ったオンナノコの胸が古泉だとは。
 こいつは俺の初体験をいくつ持っていけば気が済むんだ。

 広く襟の開いたシャツから覗く白くなめらかな曲線がひどく生々しい。
 目を奪われていると、

 「直に触りたいですか?」

 と笑われ、はっとした。

 「いらん!!」

 掴まれた手を引っぺがすようにして振り払う。
 手のひらに纏わり付く古泉の体温と感触が残り、それにすら狼狽した。

 「あ、…!」

 そうこうしているうちに、身体をずり下げるように移動させた古泉の手がズボンの隙間から這い込んでくる。

 「や、…やだ…ッ!!」

 細くしなやか手指が、まだまともに反応していないそれにからむ。
 ひ、と息を飲んで眼下の古泉を見ると、綺麗な微笑の端に肉食獣のような獰猛さをのぞかせ、

 「…この姿がお嫌なんでしたら、目を閉じていてください」

 言いながら、空いている片手で俺の視界を塞いだ。









 「ふ、…く、っ……ぅ、…」

 視覚的な情報がなくなると、聴覚や触覚が過敏になるというのは本当だ。

 薄い皮膚を擦るぬるついた音と、濡れた粘膜が肌に吸いつきなぶる音が小さく響く。
 その他に聞こえるのは自分自身の乱れた呼吸と漏れ出る上擦った声だけで、それを顕著に拾い上げる自分の鼓膜がたまらなく忌々しい。
 眼窩で交差させるようにして顔を隠した両腕に、さらに力をこめる。
 普段ならこんなふうにすると無理やり引きはがしにかかる古泉も、今日はそうしてこなかった。たぶん愉しんでやがるな。
 特殊な羞恥プレイの一環のつもりなんだろう。畜生。

 「っく、んん…!!」

 ないに等しい乳首を舌先で転がしながら、すっかり勃起したものの先端を撫でてくる。
 反射的に、びくっと腰がひける。

 「気持ちいいですか?」

 いくばくかトーンの下がった女声が、吐息をふくませ耳朶にささやく。
 嫌だ。その声で喋るな。
 本気で女の子に虐められてる気分になる。

 そういう意味で首を横に振ったのだが、古泉は当然否定ととったらしく、

 「素直じゃないですねぇ」

 不満そうな声とともに、ぐり、と潤みきった尿道口を押し潰すように
 指を立てられる。

 「ふぁああッ、…あ!!」

 突然の鋭い刺激に、勝手に甲高い声が上がった。
 ほんの少し精液が漏れ出たのがわかって、また羞恥に顔が熱くなる。

 「…、う…っく」

 いっそうぬるついた音を立てる性器を扱き立てられ、自然と腰が揺れる。
 古泉の指をさらに濡らしてしまっていると思うと、いっそ縊り殺してほしいくらいの恥ずかしさが込み上げてくる。今の自分の姿を想像するだけで死にたい。

 「そろそろ限界のようですから…一度、出しておきましょうか」

 愛撫する手が早くなる。
 裏筋のあたりを圧されながら、もう片手で粘膜をひらいた先端をこねられ、一気に背筋を駆け抜ける悦楽に、閉じた視界の奥がチカチカと明滅した。


 「んんん…!!!」


 堪え難い射精感に、俺はせめてもの抵抗に声を必死に殺しながら、
 呆気なく精液を吐き出した。



 「…ふ…、…は、ぁ…」

 生理的な涙が粒になって、こめかみを伝いおちる。
 それでもできるだけ古泉の姿を視界に入れないよう目は固く閉じていた。
 見てしまえば最後、女の子の手管でされるがままに射精させられた自分に絶望して本気で首を括りたくなるかもしれん。中身が古泉とわかっていてもだ。
 絶頂直後の倦怠感に任せてぐったりと力を抜いていると、不意に古泉の手のひらが膝にかかり、左右に割開く。

 !?

 なにを、と口に出す前に、後ろの口に指が触れた。

 「ちょッ…、ま、待て古泉!!!」

 思わず目を見開いて古泉を見る。
 さすがにこれは制止せずには居られない。

 「何ですか?」
 「そ…そっちはまずいだろ!!」
 「どうしてです?」
 「…っ、だからッ…」

 どっちにしたって今のお前じゃ入れられないだろ!!

 と言った旨のことを顔から火が出そうになりながら何とか口にする。
 何を、とは聞かないでくれ。後生だから。

 古泉はきょとんとした表情をすぐにいつもの微笑に切り替えると、
 

 「入れるとか入れないとかそんなの野暮ですよ。
  僕は喘ぐあなたが見たいだけです」


 頼むから喘ぐとかいうな!その顔で!

 いつもより数段細い指先が、ぬめりを纏わせて入り口を撫でる。
 そうされると、散々そこでの快感を覚えこんだ身体は勝手に期待して収斂してしまう。
 でも嫌だ。気持ちの上では嫌極まりない。

 「う、…、いやだ、古泉……ホントに…っ」
 「そうですか?…コッチの口は欲しがってるみたいですけど」

 くすくす笑われ、目の奥が絞るように痛んだ。やばい、泣きそうだ。
 焦らすように円を描いていた指先が、ぐっと襞を圧してくる。内部を暴こうとするその動きに、俺はびくりと身体を強ばらせた。


 「…ッそっちは、男のお前じゃないと嫌だ…!!」


 考えるより先に口をついて出た、その一言が効いたらしい。
 古泉が動きを止めるのがわかった。
 脚を割り開いていた手が離れる。

 「…うっ…、…っ」

 なんだかよくわからないままこぼれてきた涙を隠すように目の上に腕を乗せると、今度はその手を引き剥がしてくる。見られたくないのに。
 なけなしの抵抗でぎゅっと目は閉じたままで居ると、すぐ真上で古泉が小さく笑うのが聞こえた。


 「ほんとうに…。可愛い人ですね、あなたは」


 そのまま、さらりと長いしなやかな髪が額におちてくる。
 頬に手のひらが触れたかと思うと、次の瞬間には柔らかな感触がくちびるに触れた。
 ふれ合わせて、啄むだけのキス。
 そうされるのは嫌じゃなかった。
 目を閉じていれば、キスの手順ややり方は普段の古泉と変わらないからだ。
 徐々に強ばった身体から力を抜いてされるがままで居ると、惜しむように下唇を食まれ、舐められたあと、ゆっくりと古泉のくちびるが離れた。



 「……………?」



 ふいに、圧しかかった身体に重みが加わり目を開くと、



 目前数十センチの距離しかないそこに居たのは、秀麗な美貌の少女ではなく、
 少しだけばつが悪そうに苦笑しているいつもの古泉だった。






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古泉(♀)↓out in↑古泉(♂)\(^o^)/


update:07/12/11



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