ATTENTION! 美しく深い森のつづきです 擬似妊娠ネタ 大丈夫な方はどうぞ! ↓ 有効期間 「気持ち悪い…」 俺が森で遭難し事の仔細を口に出すことも憚られるような目に遭って一週間。 満身創痍だった身体も三日も寝てすごせば何とか回復して、節々が多少軋むものの普通の生活が出来るようになっていた。が、今朝になって目覚めた俺をお出迎えしたのは、目の前がぐらぐらするような吐き気を伴う気持ち悪さだった。 なんでまた急に。 寒くなってきたせいで、風邪でも引いてしまったんだろうか。 しかしそれにしては特段熱もないし、喉も痛くないし咳だって出ない。 昨日寝る前までは何ともなかったのに。 それとも夕食に食べたものが良くなかったんだろうか。しかし同じものを食べた筈の古泉はぴんぴんしていて、いつも通り俺より先に寝床を出て朝食の支度をしている。もしやエルフだから胃まで頑丈だとか?だとすると天の種族に対するパラメータ配分は不公平極まりない。 何とか起き上がって食卓についたものの、用意された通常であれば食欲を刺激されるであろう焼きたてのパンやら、湯気を立てるスープの匂いを嗅いだらもう駄目だった。ろくにそれらに手も付けられず、挙句に洗面所に駆け込んで吐いてしまった俺に古泉もただ事ではないと悟ったのか、すぐにベッドへ戻るよう促された。 「大丈夫ですか?」 「ん………」 少し冷たい掌で額や頬を撫でてくる奴の顔はすっかりしょげ返っている。 俺が年に何度か、風邪やらなにやらで寝込む度に罹患している本人より不安そうな、泣き出しそうな顔をするものだから、何だかこっちが悪いことをしたみたいでいたたまれなくなる。大方医者も呼べないこの場所で、エルフとは身体の構造も違う脆弱な人間でしかない俺がどうにかなってしまったらどうしよう、とでも考えているのだろうが。 食あたりか何かだろう、寝ていればきっと明日には治ると告げると、古泉は眉を下げたまま少しだけ微笑んだ。 が、予想とは裏腹に三日経ってもちっとも状況はよくならなかった。 波があるもののずーっと乗り物酔いが続いているような拷問に近い感覚の中、食事どころか食べ物の匂いすら受け付けず、酷いと水すら吐いてしまう。何かがおかしい。 日がな一日ぐったり臥したままの俺に古泉はずっと付きっきりでいた。 「何か…食べられそうなものはないですか。少しだけでも」 小さく首を横に振ると、古泉はまた泣き出しそうな表情になった。 「お前こそ…俺に気ィ使って全然食ってないだろ。何か食ってこい。俺は平気だから」 「でも……」 「いいから」 食べ終わったら果物か何かあれば持ってきてくれないか、それなら食えるかもしれん、と頼んで寝室から半ば無理やりに追い出す。そうでもしなけりゃ奴は俺が回復するまで本当に食事も摂らずにいるだろう。まったく具合を悪くしてるのがどっちかわかったものではない。 しばらくして食事を済ませた古泉が運んできた果物のうち、普段は食べない、家の近くに成る梨に似た色形の果実だけは何とか胃に入れることが出来た。 「具合が悪いと好みも変わるものなんでしょうか……貴方、これは酸味が強くて嫌いだと普段は召し上がらないのに」 言われてみれば確かにそうだな。 吐き気がひどいせいかやたら酸っぱいものがほしくて、逆にいつも好んで食べていた筈の果物は口に運ぶ気も起こらなかった。 「…………」 「…どうした?」 急に怪訝そうな表情で黙り込んだ古泉に声をかけると、直ぐにいえ、と返事とともに柔らかい微笑が向けられる。 「何にせよちょっとでも召し上がれるものがあって良かったです。ゆっくり休んで早く良くなってくださいね」 しかし結局は翌日になっても状態は変わらないまま、果物だけをひとつふたつと口にする以外は食事らしい食事も出来ずにやはり寝床の中で過ごした。 明らかにおかしい。 食あたりだとかそういう病ならとっくに治っていてもいい筈なのに、もう五日も経つのにちっとも病状がマシになる様子すらない。 古泉が拵えてくれた胃炎に効く薬湯を何とか飲んでみてもまるで効果がない。そもそも胃が悪いのかどうかすらわからない。ただ波の程度はあれ、ともすればすぐ酷い吐き気がきて、食べ物を受け付けない他には相変わらず熱もないし。 古泉も首を傾げるばかりだ。 「あれ、水を零されたんですか?」 「……ん?」 指摘されて胸元を見ると寝間着が少し濡れていて、水分が染みた部分が色を濃くしていた。いつの間にか何かこぼしていたんだろうか。 「汗もかいているでしょうし、着替えを出しますから脱いで頂けますか」 言いながら古泉が立ち上がった。 寝室の外へ出るその背中を見送りながら上を脱ごうと釦に手をかける。すべて外し終えたところで、わずかに開けた布の端から覗いた己の胸元がふと目に入ると同時に、絶句した。 「………………」 予想もしない光景がそこに展開されていた。 まさに思考停止状態。 俺は一度顔を上げると目を閉じ、こめかみを押さえて大きく息を吸った。 ちょっと待て、落ち着け、落ち着いて考えろ。これはいったい何の冗談だ。 冗談かでなくば何かの間違いに決まっている、こんな。 ふう、と長く息を吐くと、おそるおそるまた視線を落とし、胸元を見た。が、状況は二十秒前と何ら変わってはいなくて愕然とした。どうやら錯覚ではなかったらしい。 そのまま蛇に睨まれた蛙のように固まったままでいると、着替えを手に古泉が戻ってきた。 「どうかなさいましたか?」 「!!!な…何でもない!!!」 そのまま慌てて袷を両手で掻き合わせると布団に潜り込む。 予想の範疇を大幅にライン越えしてきた事態の幾ばくも理解できていない頭の端で瞬間的に、古泉にはこれを知られてはいけない、と本能レベルで悟った。 「え…、あ、あの、着替えをお持ちしましたから、上を脱い」 「きっ…着替えなくていい!」 そこですんなり諦めてくれれば心から感謝してやるものを、駄目ですよ濡れたままでは風邪引きますから、と古泉の手が布団を剥がしてくる。いいって言ったらいいのに、何でこういうときだけしつこいんだお前は!! 布団を腰まで引きはがされてもなお往生際悪く、古泉に背を向けたままうずくまり袷を握りしめている俺をさすがに不審に思ったらしく、更に肩を掴まれ仰向けにさせようとしてくる。 「どうしたって言うんです?何かあったんですか」 「何も……ないっ」 「ないことないでしょう。そんな様子で……ほら、こっちを向いてください」 ぐい、と力を込めて引っ張られてはそれ以上強情も張れずシーツに仰向けに転がる羽目になる。俺の上に覆いかぶさった訝しげにこちらを見下ろす美形と目がかちあった。 目を合わせていられなくて直ぐに横を向いて視線を外すと、今度は寝間着をしっかり握りしめたままの手を引きはがそうとしてくる。 「い、いやだ…馬鹿っ、やめろ、って…!!」 「いいから見せてください」 薬を嫌がる駄々っ子を宥めるみたいな調子で窘められながら強引に手を引っ張られ、いやだ、と情けなく声が上擦る。 見られたくない一心で力比べをしてみたところで俺に分はかけらだってないわけで。あっさり手を寝間着から剥がされ、折りよく既にボタンの外れていたそれをさっさと大きく開けられ、胸から腹までが古泉の視線の下に曝される。 「………………」 それを見た流石の古泉も絶句して固まった。 そりゃそうだろうな。まるで笑えない。 同時にぶつんと頭の中で何かの糸が切れたみたいな感じがして途端、俺は別に泣きたくもないのにもう何がなんだかわからなくて、こみあげるものを吐き出すみたいに声を上げて泣き出してしまった。 俺は正真正銘男であって、たとえ古泉が心からそれを願っていようが天地がひっくり返ろうが女としての役割なんぞ果たせない身体だというのに。 有り得ないだろ。その男の俺のまったいらな胸から乳が出るなんて。 ---------------------------------- update:09/11/21 |